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2012年5月

2012年5月31日 (木)

聞いちゃいないのさ

いかんいかん、月刊誌状態になっている、これまで何とか週1更新を保っていたのに。ということで、アリバイ的に。ご容赦。2回分くらいの長文で。弁解ですがね。

とある深夜の帰宅時の話。
都心で電車に乗るときは、まだ終電まで間があったのだが、トラブルが2つ重なったようで、自宅のある街に進むにつれ、遅れがひどくなっていった。結果的に、本来の最終の時刻から小1時間、延びての帰宅になったが、当方としては、すっかり酔いがさめてしまった以外に、これといって実害はなかった。

とはいえ、途中、3つの乗り換えが大丈夫かと心配に。まあ、JRも無慈悲じゃないので、遅れが出たら、その先の発車時間を遅らせるなどして対応する。律儀に定時を維持したら、帰宅の足を奪うことになるしね。でも、さすがに、駅でのストップが長いと気になる。

1つめの乗り換えは、問題なく。でも、時計を見ると、ちとヤバイ。車内のアナウンスに耳を傾ける。状況は、あまりはっきりしない。2件の連続トラブルのせいか、見通しを立てにくいのだろう。最終間近は混み合うから、ざっと2時間近く立ちっぱなしも珍しくなく、そうなれば苛立つところだが、幸い座れたので、気分は鷹揚。

周囲を何となく見回す。遅延は慣れっこなのか、皆さん、それぞれに、ケータイやらスマホやらで時間をつぶしたり、寝ていたり。と、目の前の若い男女の会話が聞こえてきた。思えば、少し前の駅から乗り込んできてからずっと喋っていた。大学生。飲み会の帰りらしい。男が年上。女性は丁寧な口調。いわゆるカップルではない。男のほうが口数多し。

いや、別に「観察」しようとの意図はなかった。話の中に、聞き覚えのある駅の名前が出てきたので、ちょいとペイ・アテンションという感じ。その駅は当方の降りる駅で乗り換え、さらに10分ほど。大学は飯田橋あたりのようで、「ほぉ、かなり遠いな」と。それほど大きな声ではなかったけれど、こっちもヒマだったから、聞くともなしに。で、いろいろなことが判明したわけ。

この二人が揃って宴席に参加したのは数回程度、大学は同じでもクラブが一緒ということではないようなので、親密な間柄ではない。だから、女性の話し方は軽い敬語調。男は、それが気に食わない。「タメ口でいいよ」とまで言い、二人の間の壁を取り払いたい意向。うん、理解はするよ、でもね……。死語だろうが「身持ちが堅い」女性は、そうそう気軽な口調にならない。

たまたま帰る方向が同じという程度ではキミたちの距離は縮まらないよ、と内心で。すると、驚愕の事実発覚。こやつ、自宅がどこかは結局わからなかったが、わざわざの「送り狼予備軍」だった。女性の自宅のずっと手前の街に住む友人宅に向かうらしい。なるほど、それを理由に「一緒に帰ろう」だったのか。頑張るなあ~青年。もしかして、女性のほうは戸惑っている?

ご両人ともアルコールの影響か、まあまあ親しげには話を続けている。そこまでは、いい。が、アナウンスには注意を払っていない。電車の遅れには気づいているものの、乗り継ぎのことには無関心みたい。いいのかな、お嬢さん、貴女の家までの最後のルートはJRじゃないし、最終に間に合わない可能性について、そろそろ気にしてもいいんじゃない? と、勝手なお節介。

そうこうしているうちに、男が降りるべき駅に。ところが、動かない。電車の遅れを幸いに、もう少し先まで、と。ふむ、キミがついていったところで、どうにもならないんだけど……。当然、女性は「降りろ」と優しく促す。すると、男は、とんでもないことを言い出す。その友人が在宅かどうか、わからん、と。ほぉ、こやつ、「一緒に帰ろう」は、ただの言い訳だと「自白」したわけだ。

それに気づいたふうではない女性だが、下車を勧める。そりゃそうだ、男が降りない理由を受け入れられないだろうからね。次の停車駅でも、穏やかに、「降りろ」「降りない」。ちょっと困った様子の女性。ついには、その駅から逆方向の電車に乗らないとダメだというポイントを超える。男の言い分は「こうなりゃ朝までカラオケでも」。「こうなりゃ」って、それ、アンタの一方的な都合だろ。

つまり、「キミと一緒にカラオケ屋で朝まで」が本音。でも、ストレートには口に出せない。まあ、ホテルに誘っているわけではないから、女性が諾する期待はあるかも、と成り行きを楽しんでいると、二度目の事実発覚。親と同居していたのである。そのうえ、父親は「ウルサイ」らしい。残念。電車の遅延を理由に「帰宅しない」との選択肢は消えた。男の口調に、やや諦観の要素。彼女の居住地は知っていたのだろうが、情報力にいささかの不足。仕方ないね。

さて。この男女の、というか、男の「下心」は、この稿においてはサイドストーリーにすぎない。問題は、こうした会話の一方で、電車の遅れはますます大きくなり、でも乗り継ぎ先の最終電車が待っていることが車内アナウンスにより明らかにされているにもかかわらず、彼らの耳には届いていないこと。

その先の電車があるかどうか、ようやく、懸念する言葉が発せられたのは、我が街が近くになってから。すでに、30分の遅れだと知らされているのだが、そこの部分は彼らの耳に届いていないようだ。ただただ、心配しているだけ。少なくとも、ぼくの下車駅、つまり女性の最後の乗換駅までは行ける。ぼくは、何度も聞いている。安心。でも、アナウンスは、しつこい。しつこすぎる。

しかし、女性は、アナウンスをきちんと聞いていない。にこやかな顔つきながら(内心では)男への対応に忙しかったのか、スマホで電車の時刻を確認する作業はしても、繰り返しのお知らせに注目しないのである。「(最後の電車は)あるかなあ~」と口にし、その瞬間だけ、男を頼りにする風情。が、男のほうは、それどころではない。刻々と決断リミットが近づいている。

ぼくにとって最後の乗換駅。興味津々で、この二人についていく。大きな駅だし、ここで、男が駅を出て、駅前の何軒かあるはずのカラオケ店に向かう選択肢はある。が、あくまで(無意味な)エスコートする決意を固めたのか、次の電車に揃って乗り込む。この電車は、ぼくらが乗ってきた電車の後続の本来の最終が着くのを待つというので、さらに遅延。女性はやっと、最後の電車があるか、心配を始めた。

実は、この段階で、彼女は自宅に帰れないことが確定している。JRではない当該ルートは、この最終に接続できない、とのアナウンスがあったのだ。30分以上の遅れを許容できなかったのだろう。発車を待ちながら、男は、なおも「カラオケ屋で朝まで」「寝ないと明日の朝がキツイなあ」などと口にする。ほとんど独り言である。

ぼくの降りる駅には近くにカラオケ店があるから、始発が動き出すまでの数時間、彼の「居場所」に問題はない。しかし、女性は、もはや、そんなことに関心がない。自分の足の確保。最終地までは、とても歩ける距離ではない。まして、深夜。「(接続を)待ってるかなあ~」と、こちらも独り言。ぼくは、「ないよ」と応えることはしない。そんなギリはないし、このあとの展開に注目するのみで。

そして、ぼくの下車駅。二人ももちろん降りる。ホームのアナウンスで、やっと、彼女は、その先の足がないことを知る。よくは見えなかったが、それほど落胆してはいないようだ。過去にも同様の経験があるのかな。いや、違ったみたい。駅を出て、タクシー待ちの長い列を見て、その夜、彼女は初めて驚きの表情。というか、「わあ~っ」と、小さく叫んだ。最終が遅れ接続できなかったのだから、タクシーを選ぶしかない客が少なくないのは自明の理。いまさら「どうしよう」と悩んでも、遅い。

二人の話は、ここまで。男は彼女とともに列に並んだ。そこまでは確認したが、タクシーは一台もなかったから、彼らが乗るまでには、さていったいどれほどの時間が……、それを見届けるほど、こちらもヒマじゃないからね。男が結局、どうしたのか、非常に興味はあったけれど。ちなみに、女性は、列に並びながら、ようやく、自宅に電話。タクシーで帰ることを告げていた。

教訓。あれだけ何度も何度も車内アナウンスで、遅延のこと、乗り継ぎのこと、最終電車が待っていること、待てないこと、親切を通り越して繰り返し知らせていたのに、この男女の耳には、なかなか届かなかった。要するに、ほとんど聞いていなかった。自分にとって大切な情報であるにもかかわらず、本人も途中から気にし始めていたのに、聞こうとしなかった。関心事であるはずなのに、気に留めなかったのである。そう、聞く耳をもたない人間には、あの執拗なアナウンスも無駄だった。

ぼくは、悟ったのです。これが、いつまでたっても「オレオレ詐欺」がなくならない理由なのか、と。聞いちゃいないんだね……。

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