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2006年11月25日 (土)

時代

憂国忌である。何それ? かなあ……。1970年11月25日、ひとりの作家が死んだ。いまは様変わりしてしまった、陸上自衛隊の市ヶ谷駐屯地で、腹を切った。比喩ではなく。ぼくは、このニュースを雀荘で耳にした。卓を囲んでいた友人は神保町の古本屋街へ走った。初版本が高騰すると叫びながら(誇張です)。文学という言葉が生きていた時代、ハードカバーの初刷りには価値があった。ファンだった彼は、たしか『豊饒の海』第四部『天人五衰』、いや第三部だったかな、まだ買っていなかったので慌てたのである。

ぼく? 文学青年していたので、もちろん気になる対象、だいたいは読んでいたけれど、そのころは、太宰治を卒業し、無頼派といわれるなかでは織田作之助のファンで、SFに傾倒していたから、そんな友を微笑ましく見送った。と思う、たぶん。いや、呆れた顔をしていたかも。なんにしても、ビッグニュースだった。蛇足ながら、つきあいはすでになかったけれど級友・浅田次郎も衝撃を受け、そして自衛隊に入った、と後に知る。

いつか、自ら死を選ぶだろうとの予感はあったはず。予測する専門家もいたらしい。でも、よもや、あんな形でとは。三島由紀夫は、バルコニーの上で、野次と怒号とで見守る群衆に檄を飛ばした。しかし、届かなかった。そして、壮絶な最期を遂げた。喜劇ともいわれた。いろいろな憶測が飛び交った。いつしか、その政治的な主張は忘れ去られた。が、36年後の今日、その骨子は生き続け、部分的に具現化しようとしている。三島は草葉の陰で何を想う。

東京帝大文学部の三島は生きていれば81歳、大阪帝大工学部の我が父と同い年である。片や、兵役に就くことなく真っ当に卒業し、いったんは大蔵官僚となり、45歳の若さで自衛隊の決起を促した末に自死の道を選び、愛国少年の父は理工系ゆえ免除されていた兵役に自ら志願し、満州・シベリアと流れ、60年余のいまなお一言も語らぬ体験を経て、現役である。
★時代(1975「第10回ポピュラーソング・コンテスト」「第6回世界歌謡祭」グランプリ曲)

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